上製本は少し大きい厚紙の入った表紙で本文が守られる製本で、ハードカバーとも言われます。これまでの中綴じや無線綴じの製本に比べ手順も多く、必要な道具や材料もたくさん必要になります。きれいに製本できれば、中綴じや無線綴じよりもしっかりとしており、高級感のある印象を与えることができます。上製本の場合は、本文ページと表紙まわりを別々に作成に後で背と見返しで接着します。まずは本文ページの制作を紹介し、次に表紙まわりの制作、最後に表紙まわりと本文ページを接着する方法を紹介します。
用語の解説
制作過程の中で出てくる用語です。分からない用語は参考にしてください。
- 造本(ゾウホン)……印刷された紙の束やパーツを本の形に作り上げること。
今回は造本の形の一つ、上製本を説明します。 - 上製本(ジョウセイボン)……本体と表装が見返しで繋がれた設計の造本の一種。表層がチリ分大きく、本文を保護します。
- 本(ホン)……造本の世界では本文が記載された折のまとまりを「本体(ホンタイ)」、
表紙の部分を「表装(ヒョウソウ)」とも言います。以下の 制作過程ではそう呼びます。 - 折(オリ)……本来は印刷用語。
手製本なので1折は4頁・8頁・12頁・16頁……と自由に決められます。
作る本の総頁数、本文の紙の厚さ、ページの開き具合等を考慮し決めてください。
開き具合を調べるには折をクリップで仮止めし開いてみてください。
尚、上製本では折を糸で通してまとめていく作り方の特性上、4の倍数以外の総頁数でをつくることは出来ません。
(つまり、手製本の無線綴じのように同じ偶数頁でも6頁・10頁・14頁・18頁……は作れません。)
台割をつくる時気に掛けて下さい。(捨て紙/造本の為に用意した白紙の頁がある分には構いません。) - 支持体(シジタイ)……各折を糸で縫い付ける時に支える軸になる紐のことです。
- 見返し(ミカエシ)……本体の最初と最後に付いている紙。造本では本体と表 装をのり付けし繋ぐ役割があります。
- 裏打ち(ウラウチ)……造本では、極端に薄い紙や布の裏に紙を貼ること。
表装の加工中に生じるシワを防ぎ、強度を保つ為に行う。 - 花切れ……本体と表装を付けた際に天地から背の接合部を見えなくする役割があります。装飾としても使います。
使用する材料一覧
本体の制作で使うもの
- 印刷し折にした頁
- 見返し
- 麻紐(荷造り用ではなく手芸用の細く縄目が粗くないもの)
- 絨毯修繕針または毛糸針
(麻紐が通る程度の大きさの針穴の付いた針)
100均で特殊針のセットで売ってると思います。
表装の制作で使うもの
- ボール紙
- 表装するもの(印刷した紙、布、革等)
- 花切れ
- スピン(栞紐/付けるなら)
- 寒冷紗(ガーゼ)
- 花切れに使う布
- こより(市販品でも、ティッシュで自作でも構いません)
- 木の板 2枚
共通
- ハケ
- トレイ(ボンド液を入れておける入れ物なら何でも良いです)
- 木工ボンド
本文ページの制作
本文ページの制作の流れは、下記のようになります。
- 本文を印刷する
- 折ごとにまとめる
- 麻紐をテーブルにセットする
- 見返し・折に支持体を食い込ませる切り込みを空ける
- 折を麻糸に糸で縫い付けていく(縛り付けていく)
- 端の処理をする
- 本体を木の板で挟み、背の部分にスピン・花切れ・寒冷紗を背側につける
- 乾燥させる
切り込みの間隔
(計算例/版型がA6で高さが148mm、支持体が2本のときはまず天地10mmの位置に糸を通す切り込みをいれます。
残りは148-10-10=128mm、128÷3=42.66・・・mmとなるので約42.5mmとします。
よって切り込みを入れる位置は天から順に10mm、52.5mm、95mm、138mmとなり52.5mm、95mmの位置に麻紐を入れます )
まずは、本文ページをプリントします。用紙サイズから何面取れるかを考えて、InDesignで面付けしたデータをプリントします。4ページ1台として中トンボで折ります。また、見返しに使用する用紙も折って本文ページの前後に束ねます。キレイに束ねたらズレないようにガチャックなどで固定します。
背側の天地10mmの位置に糸を通す切り込みをカッターで空けます。その間は偶数になる切り込みを等間隔に空けます。切り込みは支持体が半分~2/3食い込む程度入れます。中の折にまで切り込みが入っていないと小口の裁断位置が揃いませんので切込みを入れたら折を開いて確認して下さい。
麻紐を先ほど空けた切り込みに通します。
もう一方を隣の切り込みに通してテープで固定します。
端の切り込みから糸を通した針を入れます。
内側を通り、隣の切り込みから背に針を通します。
背側に出した糸を麻紐に絡めて同じ切り込みに針を通します。
折りの中側に針を出したら、隣の穴から背側に針を通します。
端まで来たら、糸を結びます。
ここまでの状態です。
麻紐を10mm程残して切り離し、端を針でほぐして3等分し扇状に広げます。表紙まわりと本文を貼り合せた時、見返しの浮きを無くすためです。
麻紐をほぐしたら、見返しの紙に厚さが出ないように貼り付けておきます。
本文ページの天地小口の3方を内トンボ(判型)で断裁します。1度に切ろうとせずにカッターの角度に気をつけながら1枚ずつ切っていきます。
必要があれば断裁面をヤスリで平らにします。
本体を木で挟み、背にボンドを塗ります。
筆でボンドをなじませます。
花布(はなぎれ)を準備します。花布とは背の天地に付ける飾り布です。元々は補強が目的だったそうですが、現在は背部を隠すことと装飾として使用されます。作り方は和紙をねじってこよりにし、布にボンドを接着したものをハサミで切ります。
天側にはしおりと花布を付けます。
地にも花布を付けます。
背を補強するために寒冷紗を糊で貼ります。寒冷紗の浮きをなくすために上から歯ブラシで叩きます。しっかりと乾燥するまで置いておきます。
表紙まわりの制作
表紙まわりの制作手順としては、
- 表装の裏に仕上がりの下書き線を入れ折る。芯紙を入れる場合は貼り付けてから折る。
- 背の溝になる部分に、ヘラで溝引きする
- 本体の背の部分にボンド液を塗り、表装の背に付ける
- 背の溝を麻紐で縛り、固定する
- 乾燥させる
- 表装の見返しが付く部分にボンド液を塗り、見返しを貼り付ける。
- 見返しの間(表2と表2対向の間、表3対向と表3の間)に紙を入れ重しを載せ乾燥させる(約1~2日)
ボール紙のサイズは判型(本文のサイズよりもW寸法+6mm、H寸法+6mm)で用意する。背のボール紙は本文ページの背幅+4mmで用意した。表紙の用紙は天地左右の4方向で15mm程度大きく用意した。表紙の用紙にのり(フキエ糊+ボンド+水)の筆で塗り、ボール紙を貼る。ボール紙は薄いと反ってしまうので、スプレー糊などで合紙して一晩、重しを置いて接着したものを使用した方が良いと思います。
表紙の紙はボール紙から3mm程度空けて、斜めにカットしておく。
表紙の紙を折り返して接着します。接着できたら、背の溝になる部分に、ヘラで溝引きしておきます。
表紙回りと本文ページの接着
これで表紙まわりと本文ページが準備できました。続いて表紙まわりと本文の接着をします。
表紙まわりの背にボンドを付けます。
本文の位置合わせを正確にします。
ボンドを塗った表紙の背を本文の背に接着します。
ヘラで溝入れをおこないます。
ミゾを入れた部分を糸で結んで、しっかりとミゾが入るように固定します。
接着されるまでしばらく置いておきます。
背のボンドがしっかり接着されたら、見返しと表紙を接着するために表紙側に糊を筆で塗ります。
見返しを表紙まわりに接着します。見返しの間がくっつかないように紙を挟み、重しを載せて1〜2日置いてしっかりと乾燥させます。
しばらく重しをして接着されるのを待ちましょう。接着が換装したら完成です。
簡易的な製本キットも売られていますが、一度はきちんと作ってみると仕組みが分かり勉強になると思います。これまでの製本記事もそうですが、生徒さんの協力で撮影させてもらっています。感謝。